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2015.05.11

最高のろくでなし

150411 「人と比べても意味がない」 「下を見るより上を見ろ」
 子どもの頃よく親から言われ、今では子どもに言っている、このフレーズ。
 確かにそうなんですが、『ポップ1280』(ジム・トンプソン)を読んだら、「こいつよりマシや」という、後ろ向きな言葉がこぼれてしまいます。
 これまでいろいろな小説を読み、さまざまな登場人物と出会ってきましたが、『ポップ1280』の主人公、ニック・コーリーは断トツのろくでなしです。

 ニックは、人口1280人のポッツ群の保安官。にも関わらず、町を守るどころか、私欲のため、保身のために、次々と悪事を重ねていきます。私欲、保身といっても、大きな利権やどうしようもない事情が絡んでいるワケではなく、心底しょうもなくケチなことばかり。
 しかも、悪さの手口は行き当たりばったりで、姑息。“小悪党”という言葉を使うのがもったいなく思えるくらいのクズ具合を発揮します。町の人たちも彼のクズぶりは知っているものの、バカとハサミは使いよう精神で放置。しかし、バカ故そこらじゅうにほころびが生じ、四面楚歌の状態に。
 そこで、ニックは考えます。この窮地を脱する術はないものかと。普通の小説に出てくる悪党なら、ここで完全犯罪を思いつくとか、大胆不敵な計画をくわだてたりしますが、彼の場合は、自分がどうすればいいのか皆目見当がつかない、という結論に達するだけ。仕方なく今まで通り、行き当たりばったり&姑息な悪事を繰り返す羽目に。しかし、そういうことに限っては妙に悪知恵がはたらいたりして、身の毛がよだちます。
 でも、ニックがみっともないことをすればするほど、『北斗の拳』のジャギ&アミバ ファンである僕の心は弾むのです。どうして、彼に惹かれるのか。それは、一方で「人と比べても意味がない」 「下を見るより上を見ろ」という正論を振りかざしながら、もう一方では「こいつよりマシや」と思ってしまう、矛盾を炙りだしてくれるからなのかもしれません。
 物語は一見、荒唐無稽に見えますが、古い価値観や風習が残るスモールタウンの闇をリアルに描いています。この小説が出たのは1964年ですが、今の日本でも地方から妙な議員さんが出てくることからも分かるように、ここに書かれていることがいかに本質を捉えているか、ご察しいただけると思います。

 作者のジム・トンプソンは、キューブリックの『突撃』 『現金に体を張れ』や、ペキンパーの『ゲッタウェイ』の脚本を手掛けるなど、映画と縁の深い人。近年ではマイケル・ウィンターボトム監督が『キラー・インサイド・ミー(内なる殺人者)』のメガホンをとりました。ぜひとも誰か、『ポップ1280』も映画化してほしい。コーエン兄弟がハマりそうですが、ちょっとハマり過ぎて面白味がないですかね。

posted by ichio