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2019.02.12

『サスペリア』リメイク版が凄いことになっている件

100212 なんか、圧倒的にヤバいものを見たような気がしております。何がどうヤバいのか説明できないだけでなく、自分が何を見たのかさえも理解できないほど、まだ頭の中がクラクラしています。強いて例えるなら、知り合いのうちにお邪魔した時に気さくに迎えてくれたお母さんが、その世界では有名なホンモノの女王様だった時の衝撃を10倍したくらいの感じでしょうか。この例え、知り合いの“奥さん”ではなく“お母さん”で、紹介された後に女王様であることを知るのではなく、紹介されたその時に気づくことが重要です。

 これだけ言えば、僕が何の話をしているのかお分かりでしょう。そうです、リメイク版『サスペリア』です。
 『サスペリア』といえば、暗黒提督ダリオ・アルジェントが手がけたホラー映画の金字塔。作品を観たことがない人でも、「決して一人では見ないでください」というキャッチコピーを知っている人は少なくないでしょう。この恐怖の聖典が40年の年月を経て甦ったのだから、ただ事ではありません。

 バレリーナを目指すスージーは、夢膨らませてドイツのバレエ名門校に入学。ところが何だか学校の様子がおかしくて、次々に奇々怪々なことが起こる。学校に秘密が隠されていると感じたスージーは、前から気になっていた謎の扉を開けて……、というのがオリジナルのストーリー。
 リメイク版のストーリーも基本的には同じなんですが、内容はまるっきり違うものになっています。まず、世界観が違う。オリジナルは漆黒と極彩色を多用した、ギトギトした色彩だったのに対して、リメイク版は画面全体の色合いがおさえられていて、灰色がかった地味なトーン。しかし、画面のどこかに赤色が配置されていて、血を連想させる仕掛けになっています。またオリジナルは、ビックリハウス的な要素が多分にありましたが、リメイク版はグロいシーンも淡々と描いているのが印象的。個人的には、後者の静かな空気感がとてもとても不気味です。
 た・だ・し! 怖いのは雰囲気だけで、作品全体でいうと、ちっとも怖くありません。これがホラー映画という範疇に入るのかさえ怪しいほど。でも、今回のリメイク版は怖い・怖くないというのは問題ではなく、目の前の映像を2時間半、ひたすら浴び続けることに意味があるように思うのです。
 序盤の“起こりそうで何も起こらない”不穏な雰囲気。バレエという特異な人体の動きを通じて発散される、人間の内に潜む魔。中盤のパラノイア的な映像。そして、クライマックスの大狂宴!!! これを見たら、この後仕事の効率が落ちるほど尾を引くこと間違いなしです。

 この“とんでも映画”を監督したのは、前作『君の名前で僕を呼んで』(これ、どういうことですか?)で世界的に高評価を得た、ルカ・グァダニーノ。アルジェントと同じイタリアのお方です。彼の過去作からすると、伝説的なホラー映画を手がけること自体が驚きだったのですが、出来上がった作品を観て、何となく合点がいきました。この作品はホラー映画という形式を借りていますが、救いの作品であり、希望の映画でもある。だから、あれほど凄まじい映像をぶっかけられても、そんなにイヤな感じがしないのでしょう。ちょっと前に公開された『ヘレディタリー 継承』とは真逆のベクトル。

 トム・ヨークの音楽もハマっているし、サヨムプー・ムックディープロムによる撮影、衣装デザインのジュリア・ゾエルサンティの仕事も素晴らしい。そして、今回大々的にフィーチャーされたコンテンポラリー・ダンスと、スージーを演じたダコタ・ジョンソンの透け乳首がトンマで、妙にエロチックなところも高ポイント。
 ただ、アルジェントは最後の展開のこともあり、リメイク版に大激怒しているとのこと。
 余談ですが、ダンスの振付を担当したのはダミアン・ジャレというベルギーのダンサーさんだそうだすが、“ダミアン”という名前がもうひとつのホラー映画の傑作の主人公と同じで、ちょっと怖い。
 その他にも、舞台となっている1977年のベルリンの社会背景や、ドイツにおける前衛バレエの歴史、スージーが生まれた血筋など、さまざまな要素が盛り込まれているのですが、その辺りはオフィシャルサイトにある町山智浩さんの『サスペリア』解説をご覧ください。
政治や民族に関する内容を、物語の中に埋め込むという点で、僕は『ブリキの太鼓』を思い浮かべました。

 とにかく、この映画は是非、一人で見てください。

posted by ichio