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2016.09.30

ロバート・グラスパーがノッている

160930 皆さんのまわりに“ノッてる”人はいらっしゃいますでしょうか?
 業界モノのドラマを観ると、「今、あいつはノッてる」みたいなセリフをよく聞きますが、本当にそんなこと言うのでしょうか。僕に限っていえば、「調子にノッてる」と言われたことはありますが、「ノッてるねぇ」と言われたことは一度もありません。
 しかし、ポピュラー音楽の世界をみると、確かに“ノッてる”人はいます。さらに天才といわれる人になると、“ノッてる”を通り過ぎてビシバシ“きてる”人もいます。50〜60年代のマイルス・デイビスや60年代のジョン・レノン&ポール・マッカートニー、70年代のデビッド・ボウイとスティービーワンダー、80年代のプリンス、90年代のリチャード・D・ジェームス、ゼロ年代はちょっと出てきませんが、まぁ、こういう人たちは確実に“きて”ました。

 こうしたレジェンドたちと比べられるかどうかは別にして、ここ数年、ロバート・グラスパーがノリにノッています。ジャズ・ピアニストである彼はオーソドックスなジャズで着実にキャリアを築く一方、もう片方ではジャズとヒップ・ホップやR&Bをゴチャ混ぜにしたスリリングな音楽をつくりだしています。
 ポピュラー音楽の歴史は異種配合の歴史でもあり、常に異なるジャンルをかけ合わせて生まれる“何か”を進化の原動力にしてきました。先に挙げたレジェンドもジャズにファンクやロックをミックスしたり、甘ったるいポップソングにリズム・アンド・ブルースの黒いフィーリングを取り入れたり、電子音楽を大々的にフューチャーしたり、さまざまな融合にチャレンジしていました。
 また、80年後半〜90年代にかけてジャズ・サイドとヒップホップ・サイド両方から、ふたつの音楽をミックスする動きがありましたが、当時はまだコンセプト先行で、頭で音楽をしているというか、腰にこないというか、とにかくこなれていませんでした。それはそれでキュートなんですが。

 しかし、ここ10年くらいの間に、ごくごく自然にジャズやヒップ・ホップ、R&Bなどをミックスできる感性とスキルをもったミュージシャンが現れはじめました。ガンダムでいうところの「ニュータイプ」です。80年〜90年代にかけてのミックスが素材をブツ切りにして盛りつけしていたのに対して、ニュータイプは素材を煮込んでシチューをつくる感じでしょうか。ロバート・グラスパーはそんなニュータイプの代表格であり、ピアニストであることと活動スタンスが似ていることから、ハービー・ハンコックの発展形ともいえるでしょう。
 彼はここ数年驚異的なペースで作品を出しているのですべての作品を聴けていませんが、どれも物凄く高いクオリティをキープしています。そんな中で最も気に入っているのが、『ブラック・レディオvol.2』。コモン、スヌープ・ドッグ、ジル・スコット、アンソニー・ハミルトン、ノラ・ジョーンズなどをゲストに迎え、アルバム全編に渡ってジャンルのハイブリッド化を展開。こういうことをすると、とっ散らかった内容になったり、お互いの良さを打ち消し合ったりするのがよくあるパターン。
 私たちの身近なところにも、「A案とB案の良いところを合わせたらいいんじゃないの」という人、いますよね。しかも、こういうことを言う人に限ってデキない。カレーとお寿司を一緒に食べてもおいしくないように、ゴジラとガメラが一緒に出てきてもシラケてしまうように、矢部寿恵と結城みさが競演してもエロくないように……いや、これはエロくなるな……。とにかく安易に良いもの同士を合わせても逆効果になることが多いんです。
 しかし、ロバート・グラスパーは違います。的確なプロデュースで統一感のある、めちゃ気持ちいい音楽に仕上げています。ひとつのジャンルとして完成しているといってもいいくらい、それぞれの魅力を引き出し合い、まとめているところが凄い。これは明確なビジョンと本質を見極める目(耳)をもち、思い描く完成形に向かって引っ張っていく力がある証。
ここまでのことは期待しませんが、せめて「適当にパッパッとやって、いい具合にして」という指示はやめていただきたいと思う今日この頃です。でないと、ノるどころか、コケてしまいますので、よろしくお願いします。

posted by ichio