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2019.08.22

『離婚伝説』のカオス

190822ちょっと前に幻のアルバム『ユーアー・ザ・マン』が発売されたこともあり、マーヴィン・ゲイ熱が上昇中。好きなミュージシャンって、聴く時期によって刺さるアルバムが変わるものですが、今は『離婚伝説』がキテます。
別に僕がそういう問題を抱えているワケではありません。至って円満ですッ! 
まずタイトルにクラッとくるじゃありませんか。“離婚”という、どちらかといえばマイナスの意味合いのある言葉(人によっては「離婚してハッピー♪」というケースもあると思いますが)と、プラス的な意味合いで使われることの多い“伝説”という言葉が合体することによって生まれる圧倒的な違和感と意味不明感。個人的にはピンク・フロイドの『原子心母』やT.レックスの『電気の武者』レベルのインパクトです。

そしてジャケットデザインもタイトルに負けない、なかなかのインパクト。裸で抱き合う石像をバックに、ゲイさん(とってもバリバリの女好きです)もギリシャ彫刻になってポーズをキメている。カッコ良くもなければ味もない、かなりマヌケなデザインです。黒光りしているさまは、男としてギンギン状態であることを表すメタファーでしょうか。どっちにしても、「何、これ?」「何か変やな」と思わせるオーラが充満しています。

さきほど“意味不明”と書きましたが、『離婚伝説』というタイトルには深〜い意味があるのは有名。このアルバムの原題は『Here, My Dear』。“愛する人よ”が、なぜ真逆の意味合いになるのか・・・。
当時ゲイさんは、浮気がもとで奥さんとうまくいっていませんでした。この奥さんというのが、ブラックミュージックの名門レーベルであり、ゲイさん自身も所属していたモータウン・レコードの社長であるベリー・ゴーディ・ジュニアの姉、アンナ・ゴーディさん。ちなみに17歳年上の姉さん女房です。
アンナさんはゲイさんの度重なる浮気に目をつぶっていたものの、17歳年下の女性との関係にはブチキレ、離婚することに。当然ながらその際モメにモメて、ゲイさんは財産の大半を失い、さらに慰謝料として新作を作ってその印税をアンナさんに支払うことになりました。それが、『離婚伝説』というワケです。
この背景を知ると、原題の『Here, My Dear』がどれだけ嫌味かおわかりいただけるでしょう。つけ加えると、前作の『アイ・ウォント・ユー』というタイトルは離婚の原因になった浮気相手に捧げられたもの。そして先ほど触れた『離婚伝説』のジャケットデザインは、アンナさんとの離婚裁判を表していて、“強欲女にいじめられている可哀想なオレ”をアピっています。
しかも歌詞は全編に渡って嫌味や恨み節、生々しい暴露が綴られています。はっきり言って「おっさん、何しとんねん!」です。

でも、困ったことに音楽はいいんです。スキャンダルもあり発売当時から長らく駄作のレッテルを貼られてきましたが、個人的には『ホワッツ・ゴーイング・オン』に次ぐ傑作だと思っています。少なくともスルーするのは勿体な過ぎる作品です。
どこがそんなに良いのかというと、『ホワッツ・ゴーイング・オン』『レッツ・ゲット・イット・オン』で開花したメロディメイカーとしての才能と、『アイ・ウォント・ユー』でモノにしたボーカルの多重録音技術が絶妙の塩梅でミックスされているんです。バックメンバーは黄金期のラインナップではないものの手堅い演奏。こうした要素が合わさって、曲単位だけでなくアルバム全体を通してファンクネスとクールネスが同居する唯一無二のサウンドが完成したといえるでしょう。
ゲイさん自身も手応えを感じたのか、本来ならテキトーに作ってさっさと元奥さんへの義務を果たせばいいのに、2枚組の大作を作ってしまいました。こうした矛盾を抱えているところにも不思議と惹きつけられます。
彼がしたことは今ならSNSで大炎上モノですが、傑作というのはワケのわからないカオスから生まれるのかもしれません。

posted by ichio