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2009年02月14日

スティーヴン・ミルハウザーの世界

090214.jpg先日、某県の山奥にある病院に一人で取材に行く。取材がはじまったのはほとんど日が沈む時間で、病院を出た時は完全に真っ暗。バスはなく、タクシーも一台も停まっていない。駅まで距離的にはそんなにないので、小旅行気分を味わおうと歩いていくことに。来た道をなぞって歩いていたつもりが、気がつくと見たことのないところに来ている。吾輩は体内磁石が利く方なので、自分の勘を信じて歩きつづける。しばらくして、頭上に気配を感じるので見上げると、さっき出たはずの病院が目の前にそびえ立っているではありませんか。真っ暗な山の中にぼんやりと浮かび上がる病院。完全にカフカの『城』やディックの『地図にない町』の世界です。当然吾輩はビビリまくり、競歩みたいな足取りで逃げ出しました。まぁ結局、途中で道を間違えていただけなんですけど、ミステリーゾーンに迷い込んでしまったようでマジ怖かったです。

前置きがながくなりましたが、スティーヴン・ミルハウザーの小説を読んだ時も迷宮をさまよっている感覚になります。先日『ナイフ投げ師』という短編集を読んだのですが、やっぱり同じ感覚になりました。
この人の特徴は、凝った設定や仕掛けを駆使して小説というものが言葉でつくられた虚構の世界だということを読者に意識させながら、小説のおもしろさを示してくれること。まったくジャンルはことなりますが、ア・トライブ・コールド・クエストを聴いている時も同じような感覚になります。
さてさてミルハウザーですが、先ほども申しましたように、ちょっと普通でない入り組んだ設定や仕掛けを楽しむのがこの人の作品の醍醐味。代表的な例をあげると、11歳で死んだ天才作家の伝記を、同い年の友達が書いたという設定の『エドウィン・マルハウス』なんてのがあります。
ところが、『マーティン・ドレスラーの夢』あたりから派手な仕掛けをとっぱらいじっくりとコクのあるストレンジな世界を描くようになってきました。(『ナイフ投げ師』に収録されている作品がいつ頃書かれたものなのか知らないので、この変化は単なるこじつけかもしれませんが)
個人的には仕掛けを隠し味にした作風の方が、作品の世界観のヘンテコぶりがより際だつので好きです。
ところで、「パラダイス・パーク」という作品と、小林恭二の『ゼウスガーデン衰亡史』がすごく似ているのは偶然なんでしょうか。そう思うと何だかこのふたり、他の作品も共通点があるような気がしてきました。

posted by ichio : 02:58 | | trackback (0) |