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2012年10月08日

パイオニアの苦悩

121008.jpg街を歩いていると一人で話をしている人を見かけて、ゾゾッとすることがあります。携帯にマイクをつけて通話しているだけなんですけど、何か腑に落ちないものを感じます。
それ、アリなのか?と。
申し訳なさそうに話すのならまだ可愛げがあるんですけど、こういうものを使う人に限って満面ドヤ顔だから困ります。この前なんてスーパーでキャベツをにぎりながら仕事の話をしている人がいて、“オレは野菜を買ってる時も仕事をしているデキる人なんだぞ”という視線を投げかけてくるワケです。投げかけられた方にしてみれば、こういうムダな思いを駆けめぐらせなければならないので大変迷惑です。できる限り人前では控えてほしいものです。
そういえば携帯電話が世に出始めた時も大きな違和感をおぼえたものですが、さすがにこれは風景になっちゃいましたね。

音楽でも今ではラップトップミュージックは当たり前になっていますが、昔はMacで音楽をつくること自体が話題になりました。そんな時代に活動をはじめた音楽家にカール・ストーンという人がいます。彼は現代音楽に近いフィールドで活動しているのですが、作品は結構ポップで、いま聴いてもすごく新鮮です。実験のための実験に終わっていないのは、彼が50年代の生まれで、子どもの頃にロックもクラッシックもゴッタ煮で聴いていた世代であることが大きいんじゃないかと思います。
そんな彼の音楽の中でひと際キャッチーな作品が「Shing Kee」という曲。
最初は抽象的な持続音が鳴っているのですが、だんだん人の声になってきて、矢野顕子が歌うシューベルトの「菩提樹」のフレーズが現れてくるんです。仕掛けとしては、少しずつ再生スピードを上げて、同じ時間に切り取ったフレーズをループさせる単純なもので、先輩であるスティーヴ・ライヒもテープで同じようなことをしているのですが、いつ何度聴いてもハッとするものがあります。
技術的なことは疎いのですが、テープで同じことをするよりもMacの方が作業的に楽でしょうし、音質や安定性においてすぐれているのかもしれません。
そして何より、このような手法と矢野顕子が歌う「菩提樹」というネタを結びつけたストーン自身のセンスがすばらしい。
もしかしたら当時の音楽仲間は彼がMacでコツコツ音楽をつくっているのを見て、“何をやっとるねん?!”とバカにしていたのかもしれません。
そう思うと、街中で手ぶらで通話している人を笑ってはいけませんね。

posted by ichio : 23:06 | | trackback (0) |