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2021.01.09

どんどん好きになる『ガウチョ』の魅力

210109b 仕事をするうえで、あるいは日々生活するうえで、人には「はじめに思い描いたイメージを忠実にカタチにしたいタイプ」と、「最初のイメージから変化することを良しとするタイプ」の2タイプが存在します。
 「何のイメージもなく、どうなっても良いタイプ」も少なからずいらっしゃいますが、今回は除外させていただきます。ついでにいうと、こういう人に限って自分では何もしない(できない)のに、非生産的で的外れなケチだけつけるんですよね。前向きな展開にするために意見交換しようとすると、自分が何も考えていないことがバレるので、「こっちは素人。あんたらプロがどうにかせい」と開き直るのがパターン。
 みなさん、それぞれ具体的な顔が浮かんだと思います。この話をしだすと止まらなくなるので、このへんでやめときましょう。

 音楽も先の2タイプに分けることができます。乱暴に分別すると、例えば前者はクラシック、後者はジャズといったところ。またポピュラーミュージックにしぼると、前者はレコーディングを重視する人、後者はライヴ感を重視する人に分けることができます。
 レコーディングを重視するミュージシャンは、録音してパッケージ化された作品を自分の表現手段ととらえていて、スタジオワークを駆使して生演奏で再現するのはむずかしいサウンドをつくる傾向があり、完璧主義でちょっと狂気じみた人が多いように思います。

 今回取り上げるのは、その代表的な存在のスティーリー・ダン。
 スティーリー・ダンは職人的な音楽活動をしていたドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーを中心に、1970年代前半に結成されたグループ。初期はソウルをベースにしたひねくれポップをつくっていたのですが、メンバーがごそっと抜けてフェイゲン&ベッカーの2人体制になってから度が過ぎるサウンドづくりが炸裂。自分たちがイメージする音を再現するために腕利きのスタジオミュージシャンを片っ端から呼びつけて、何十回も同じパートをプレーさせたり、その挙げ句すべてのテイクをボツにして他のミュージシャンにプレーさせたり、何年もスタジオに籠もってスタジオワークに没頭するなど、さまざまな伝説を残しています。

 実際にフェイゲンは自分のボーカルのアプローチについて、「前もって綿密に考え抜かれたプランにのっとって青写真どおりにやる。(中略)事前に練りに練った上で譜面に書き下ろしたものを完璧に再現する、という方法をとっている」(『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』より引用)と述べています。
 このように妥協のない徹頭徹尾コントロールされた音楽は建築美ともいえる魅力を放ち、ミュージシャンだけでなく音楽プロデューサーやエンジニアもフェイバリットとして挙げているのをよく見かけます。

 こうした企画でピックアップされるのは、キャリアのピーク時につくられた『彩(エイジャ)』が大半。曲や演奏のクオリティ、アルバム全体のバランスは確かに『彩』がピカイチ。異論はございません。
 でも、個人的な好みは次につくられた『ガウチョ』。アルバム全体に漂うヒンヤリとした質感が変態チックでたまらんのです。
 
 『彩』と『ガウチョ』では制作手法で大きな変化がありました。それは打ち込みリズム(あるいはクリック)を導入し、プレーヤーの演奏を別々に録音するようになったことです。『彩』でも多重録音、録音後の編集は行われていたものの、まだ生演奏がベースになっていて、プレーヤー同士が相手の演奏に反応して自分の演奏に反映させる余白がありました。
 しかし打ち込みを本格的に取り入れたことで、それぞれの演奏をパーツとしてとらえ、カット&ペーストを重ねる編集に重きを置くようになり、プレーヤー同士の化学反応が起こりにくくなったのです。しかも当時の打ち込みは、機材の技術的な問題と作り手のノウハウの少なさのせいで、表情の乏しいノッペリとした音。こうした要素が合わさり、『ガウチョ』はどこか無機質で、広がりのない密室性の高いサウンドになっています。
 また、アルバムの前半から中盤にかけては洗練されて聴いていて気持ちいい曲がつづくのですが、後半に差し掛かると微妙な感じになって、ヌルッと終わります。
 アルバムを聴き終わった時、「ひとつひとつの細部は良くできているけれど、建物全体を見たら傾いてますやん」という、欠陥住宅感が漂っていてクラッとするんですよね。

 こうしたことは普通マイナス要素なんですが、『ガウチョ』の場合はプラス要素になっているのが不思議です。
 収録時間が38分足らずと短く、批判めいた印象が立ち上がりそうになったところで終わり、煙に巻かけたような気分になるのも味わいのひとつ。聴く度にどんどん好きになっていくアルバムです。

 冒頭では、イメージを忠実にカタチにしたいタイプに対して否定的なことを書きましたが、こうして考えると良い面もあるんですね。
 ・・・・でも、自分が仕事で何十回もやり直しをくらい、挙げ句に全部ボツにされて他の人に依頼し直されたら、死ぬ間際まで引きずるトラウマになるのは間違いありません。家でも洗濯を手伝って、たたみ方が違うといって何度もダメ出しされたら、確実に夫婦関係はこじれるでしょう。
 自分ごととして考えるならやっぱり、変化することを良しとするタイプの方が良いです。

posted by ichio
2020.09.01

いま聴くべき劇薬、サンズ・オブ・ケメット

200901 黒い。ただ黒いのではなく、テリが出ないほどドス黒い。
 これは、サンズ・オブ・ケメットの目下最新作『ユア・クイーン・イズ・レプタイル』を聴いた感想。僕的にサイコーの褒め言葉です。

 サンズ・オブ・ケメットは、UKジャズシーンの最前線を突っ走るテナーサックス・プレイヤー、シャバカ・ハッチングス率いるグループ。
 メイングループのシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズがアフリカ色の強いサウンドなのに対して、こちらはアフロに加えてキューバやジャマイカ、ニューオリンズ、はたまた中東など、さまざまな地域のリズムや旋律を取り入れているのが特徴。しかし、音楽性の幅を広げたことで、彼の中にある黒さがより際立つ結果に。ジ・アンセスターズも異様に黒いサウンドですが、サンズ〜は文字通りドスの効いた黒さ。
 さっきからまったく説明になっていませんが、一度聴いてもらえれば分かっていただけると思います。

 現在進行形のテナーサックス・プレイヤーといえば、もう一人、カマシ・ワシントンというキャラの濃い人がいます。
 カマシとシャバカの共通点は、演奏する楽器だけでなく、“ジャズ”という枠にとらわれない音楽的志向と、スピリチュアルというキーワード。見た感じも何となく似たような雰囲気が漂っています。
 このようにジャズに対するアプローチは相通じるものがあるものの、そこから生み出される音楽はかなり異なります。カマシはファラオ・サンダース直系の昇天ミュージックで、明るく開放的なのに対して、シャバカは暗く内省的。そして、シャバカが吹くテナーは野太く、骨の髄まで響き渡ります。
 そもそも、サンズ〜のテナーサックス、チューバにツイン・ドラムという編成からして変態。この異形感は、ファラオ・サンダースよりもエリック・ドルフィーに近いように感じます。

 シャバカはサウンドだけでなくアティチュードも辛口で、『ユア・クイーン・イズ・レプタイル』では、イギリスに蔓延る人種差別と、それを助長する英国君主制やライフスタイルに対して、徹底的なアンチが打ち出されています。収録されているすべての曲名は「My Queen Is (人の名前)」になっていて、活動家をはじめ、実在するさまざまな女性を称えるメッセージが込められているとのこと。
 そういう意味でも、いま聴くべき音楽といえるでしょう。

 ただ、このグループから生み出される呪術的グルーヴは、心の奥底へズンズン沈んでいく劇薬ですので、コロナ禍で気持ちが下向きになっている方は、ご注意ください。

posted by ichio
2020.07.31

まだまだ熱いポール・ウェラー

207031  これを待っていたんですよ、アニキ〜!

 UKロックのレジェンドであり、我が人生の師でもあるポール・ウェラーが、キャリア40年を超えた今、これまで生み出してきた数々の名作たちの中に、新たな1枚を加えてくれました。

 僕がポール・ウェラーと出会ったのは中学生時代。彼がスタイル・カウンシルを始動させてしばらく経った頃です。バンド・エイドのビデオで、多くのミュージシャンが楽しげに合唱している中、一人むずかしい顔をして歌っている男前を見つけて、興味を持ったのがきっかけでした。
 それから40年あまり、ずっと彼を追いかけつづけてきましたが、正直『22ドリームス』あたりから首をかしげるように。
 そのワケは、彼の持ち味である骨太かつ憂いを帯びたメロディの後退。特にクラウトロックを意識した『ソニック・キックス』と『サターンズ・パターン』では、意図的に盛り上げる曲展開を避け、短いフレーズのリフレインとサウンドプロダクションで引っ張る曲が増え、「悪くはないけど何か煮え切らない」気持ちがつづいていました。

 そんなアニキに僕からテレパシーを使って提案していたのが、スタカン時代のようなメロディアスな曲調にエレクトロニックな要素をまぶしたAOR化。年齢を重ねた今だからこそ、ポール・ウェラー流のブルー・ナイルのようなアルバムをつくれば、いいモノができるはずという確信がありました。
 しかし、僕のテレパシーが弱いせいか、なかなか提案は受け入れられませんでした。『ア・カインド・レボリューション』でオーソドックスな英国産ロックの方向に戻る気配をうかがわせ、つづく『トゥルー・ミーニングス』ではフォーク・ロック的な要素を取り入れるなど、少しずつ近づいてはきていたものの、「ちょっと違うんですよ・・・・」と苦虫を噛み潰しておりました。

 そして、ついに僕の想いとピッタリ合ったのが、今回ドロップされた『オン・サンセット』。全編ウェラー節全開。心に引っかかるメロディも戻っている。しかもそこにこれまで試行錯誤してきた曲作りやサウンドプロダクションが活かされている。例えば、オープニングを飾る「ミラーボール」や中盤のハイライトの「モア」のような曲をダレずに聴かせる構成力は、10年代あたりから脱ウェラーを図った成果といえるし、控えめながらツボを抑えたエレトロニックサウンドは、『ソニック・キックス』や『サターンズ・パターン』で培ったもの。間違いなくここ10年間の集大成であり、傑作といえるでしょう。
 どの曲も芯がしっかりしていて聴き応えがあるのですが、やっぱりノスタルジックな雰囲気の「ヴィレッジ」と「アース・ビート」が白眉。人生の後半をむかえた男の視点から書かれた歌詞もグッときます。
 また、スタカン時代にお払い箱になったポリドールに復帰しての発売というのも泣かせるじゃありませんか。

 今作でアニキとエレクトロニックの相性が良いことが明らかになったので(僕はずっと前から分かってましたけどね[キリッ])、次作もこの路線を押し進めてほしい。
 いやぁ、またこうして彼に熱くなれることがうれしい。どこまでもついていきますッ!

posted by ichio
2020.03.03

ブラックミュージック・ラビリンス

200304 完全に魔宮に迷い込んでしまいました。当分抜け出せそうにありません。
 ここ数年ブラックミュージックをつまみ食い程度にいろいろ聴き漁ってきて、いよいよ70年代後半〜80年代前半のディスコの息がかかったファンク、ソウルに漂着。具体的な名前を挙げると、ブラザーズ・ジョンソンや映画『ゴースト・バスターズ』でお馴染みのレイ・パーカー・ジュニア、MCハマーのヒット曲「ユー・キャント・タッチ・ディス」のサンプリングネタを作ったリック・ジェイムスといった方々です。ジャケットを見ても分かるように、みなさん派手といいますが、チャラいといいますか、夜の街で会ったら注意が必要なヤニコいオーラが漂っています。
 実際にリック・ジェイムスはかなりブッ飛んだ人で、晩年はドラッグでボロボロに・・・・。またリック兄貴は、MCハマーが「ユー・キャント・タッチ・ディス」で自分のフレーズを無断で使用したことを訴え、多額の賠償金をゲット。この判例によってサンプリングのあり方がガラッと変わったという、ある意味音楽の歴史を変えた人でもあります。

 先ほど名前を上げた御大たちのレコードは今の流行りからかけ離れているせいか、ワゴンに放り出されて500円くらいで叩き売られている状態。しかし、音楽がつまらないのかというと決してそんなことはありません。ぞんざいな取り扱われ方やチープなビジュアルイメージを除去して聴くと、一撃で彼らが才能あふれるミュージシャンで、素晴らしい音楽を生み出していたことが分かります。確かに今聴くとダサい音色が混じっていたりしますが、それは「一周まわって新しい」と、こちらで忖度してあげましょう。
 特に僕はブラザーズ・ジョンソンにグッときています。軽やかで切れ味のあるギターカッティングと独特のうねりのあるチョッパーベース、そしてタイトな人力ドラム。自宅で彼らのご機嫌な曲を流しながら、微妙にズレたステップを踏んでいます。

 またブラザーズ・ジョンソンからの流れで、ジャクソンズやチャカ・カーンの素晴らしさにも開眼。中学生の時、録画した音楽番組で彼らのプロモーションビデオが流れるとすぐさま早送りしていたことを思うと、ずいぶん遠くに来たものだと感じます。

posted by ichio
2019.09.15

こんなん聴いたことない!摩訶不思議なボーダレスサウンド

190915 なんや、このめくるめく世界は!
 こんなトキメキを感じたのは、熟女セクシー女優の矢部寿恵さんに出会った時以来じゃないでしょうか。といっても、そっち方面の話ではなく、音楽の話です。
 偶然CSで出くわし、聴いて5秒も経たないうちにノックアウト。あまりに一瞬の出来事でバンドの名前も分からないまま。思いつく限りのキーワードを絞り出して検索したところ、モニタにさっき見た「いつの時代からタイムスリップしてきたん」という、インパクトのあるルックスが現れたではありませんか。

 名前はKHRUANGBIN(クルアンビン)。タイ語で飛行機を意味するそうです。2014年にテキサスで結成された3ピースのインストバンドで、ローラ・リー(ベース)、マーク・スピアー(ギター)、D.J.(ドラム)というラインナップ。ちょっと前からコアな音楽ファンの間で話題になっていて、今年のフジロックにも参加していたらしい。単独ライヴもすぐにソールドアウトになるほどの盛り上がりようとのこと。知らんかった・・・・。なんか損した気分です。

 彼らのサウンドを聴いて真っ先に脳ミソをくすぐられるのが、東南アジア的な旋律。聞こえる音の通り、60〜70年代のタイ・ファンクから強い影響を受けていて、そこにサイケデリック・ガレージやポスト・ロック的な要素を絶妙の塩梅でミックスしています。メロディはレトロでエスニックな雰囲気だけれど、リズムがクエストラヴやクリス・デイヴ以降のグルーヴを叩き出しているところがフレッシュ。ボノボが彼らをフックアップしたのが頷けます。
 マーク・スピアーのギターも達者で、演奏技術だけでなくリバーブを駆使した空間づくりがなかなかエグい。東南アジアやメキシコなどの旋律を効果的に使っているものの、単に上っ面だけを拝借するのではなく、カレーメシのようにドロドロになるまで信じて混ぜて、自分流のスタイルに消化しているところが凄い。サウンドのタイプは違いますが、デヴィッド・バーンとブライアン・イーノによる快作(怪作)『ブッシュ・オブ・ゴースト』に近いんじゃないでしょうか。とにかくポール・サイモンの『グライスランド』のシャバシャバ感とは真逆のスタンスです。(僕は全部好きです)
 クルアンビンの場合、消化剤になっているのがブルース。エスニック的な要素とブルースフィーリングが等価で混ざり合っていることで唯一無二の音になっている。テキサス出身というルーツが活きていますね。こうして様々な要素が渾然一体となったサウンドはフュージョンにも聞こえるし、アンビエントやエレクトロニカにも聞こえます。そしてとにかく刺激的で、矢部寿恵さんのようにエロいです。
こうした音楽がニューヨークやロンドンではなく、テキサスというローカル都市)から生まれていることも今っぽい気がします。

 ということで最近はKHRUANGBINかけまくり。ついでにタイやシンガポールの歌謡曲、フィリピンやトルコのロックなんかも引っ張り出してきて、夢うつつな世界に浸っている状態です。KHRUANGBIN、おすすめしたいのですが、かなり中毒性が高いので注意してください。

posted by ichio
2019.08.22

『離婚伝説』のカオス

190822 ちょっと前に幻のアルバム『ユーアー・ザ・マン』が発売されたこともあり、マーヴィン・ゲイ熱が上昇中。好きなミュージシャンって、聴く時期によって刺さるアルバムが変わるものですが、今は『離婚伝説』がキテます。
 別に僕がそういう問題を抱えているワケではありません。至って円満ですッ! 
 まずタイトルにクラッとくるじゃありませんか。“離婚”という、どちらかといえばマイナスの意味合いのある言葉(人によっては「離婚してハッピー♪」というケースもあると思いますが)と、プラス的な意味合いで使われることの多い“伝説”という言葉が合体することによって生まれる圧倒的な違和感と意味不明感。個人的にはピンク・フロイドの『原子心母』やT.レックスの『電気の武者』レベルのインパクトです。

 そしてジャケットデザインもタイトルに負けない、なかなかのインパクト。裸で抱き合う石像をバックに、ゲイさん(とってもバリバリの女好きです)もギリシャ彫刻になってポーズをキメている。カッコ良くもなければ味もない、かなりマヌケなデザインです。黒光りしているさまは、男としてギンギン状態であることを表すメタファーでしょうか。どっちにしても、「何、これ?」「何か変やな」と思わせるオーラが充満しています。

 さきほど“意味不明”と書きましたが、『離婚伝説』というタイトルには深〜い意味があるのは有名。このアルバムの原題は『Here, My Dear』。“愛する人よ”が、なぜ真逆の意味合いになるのか・・・。
当時ゲイさんは、浮気がもとで奥さんとうまくいっていませんでした。この奥さんというのが、ブラックミュージックの名門レーベルであり、ゲイさん自身も所属していたモータウン・レコードの社長であるベリー・ゴーディ・ジュニアの姉、アンナ・ゴーディさん。ちなみに17歳年上の姉さん女房です。
 アンナさんはゲイさんの度重なる浮気に目をつぶっていたものの、17歳年下の女性との関係にはブチキレ、離婚することに。当然ながらその際モメにモメて、ゲイさんは財産の大半を失い、さらに慰謝料として新作を作ってその印税をアンナさんに支払うことになりました。それが、『離婚伝説』というワケです。
 この背景を知ると、原題の『Here, My Dear』がどれだけ嫌味かおわかりいただけるでしょう。つけ加えると、前作の『アイ・ウォント・ユー』というタイトルは離婚の原因になった浮気相手に捧げられたもの。そして先ほど触れた『離婚伝説』のジャケットデザインは、アンナさんとの離婚裁判を表していて、“強欲女にいじめられている可哀想なオレ”をアピっています。
 しかも歌詞は全編に渡って嫌味や恨み節、生々しい暴露が綴られています。はっきり言って「おっさん、何しとんねん!」です。

 でも、困ったことに音楽はいいんです。スキャンダルもあり発売当時から長らく駄作のレッテルを貼られてきましたが、個人的には『ホワッツ・ゴーイング・オン』に次ぐ傑作だと思っています。少なくともスルーするのは勿体な過ぎる作品です。
 どこがそんなに良いのかというと、『ホワッツ・ゴーイング・オン』『レッツ・ゲット・イット・オン』で開花したメロディメイカーとしての才能と、『アイ・ウォント・ユー』でモノにしたボーカルの多重録音技術が絶妙の塩梅でミックスされているところ。そして、バックメンバーは黄金期のラインナップではないものの手堅い演奏。こうした要素が合わさって、曲単位だけでなくアルバム全体を通してファンクネスとクールネスが同居する唯一無二のサウンドが完成したといえるでしょう。
 ゲイさん自身も手応えを感じたのか、本来ならテキトーに作ってさっさと元奥さんへの義務を果たせばいいのに、2枚組の大作を作ってしまいました。こうした矛盾を抱えているところにも不思議と惹きつけられます。
 彼がしたことは今ならSNSで大炎上モノですが、傑作というのはワケのわからないカオスから生まれるのかもしれません。

posted by ichio
2019.06.03

トム・ミッシュ 大阪公演

190603 5月29日に行われたトム・ミッシュの大阪公演に行ってきました。
いや〜、期待通り良かった! 仕事を無理やり中断して大阪まで出た甲斐がありました。
 トム・ミッシュは最近いろいろなところで紹介されたり、星野源さんが注目していたりすることもあるせいか、会場は20代らしきの若人を中心に満員。
 彼のライヴは去年のサマーソニックで体験し、パフォーマンス力の高さは折り紙付きでしたが、その時よりも今回の方が骨太で、曲によってはヘビーなサウンドになっていた印象。バンドメンバーが替わっていたことも影響しているのかもしれません。特にベースのお姉さん、凄い音出してました。
 ヘビーといってもデビューアルバム『ジオグラフィー』をはじめ彼のこれまでの曲の大きな魅力である清涼感はそのままで、気持ちいいグルーヴをつくりだしていました。20代半ばでソウル、ファンク、ジャズ、ヒップホップなど幅広い音楽を“丁度いい”塩梅にミックスしながら、トム・ミッシュ印の音楽に仕上げるセンスと技量に脱帽です。

 ライヴ構成は中盤にスローな曲を集めるなど、全体的に程よく落ち着いた雰囲気。お酒を飲みながら観ることができればサイコーでした。
 また、あまりにセンスが良すぎて、見事にコントロールされた演奏を当たり前のように聴かされると、「若いんだから、もっとはっちゃけてもいいんじゃないの?」という、いちゃもんに近い感想も湧いてきたりします。これは5Aのおいしいステーキを食べている最中に「どて焼きも食べたなってきた」とほざくような野暮なのかもしれません。
 でも、『ジオグラフィー』ですでに完成されていたスタイルをこれからどう発展させていくのか早く2枚目のアルバムで確かめたいという期待感は、この日会場に足を運んだすべての人に共通する思いでしょう。

posted by ichio
2019.03.04

色褪せない魅力『Child’s View』

190306 天賦の才を持ちながらさまざまな理由でその才能を発揮できず、ひっそりと表舞台から姿を消した人たちを追うドキュメンタリー・バラエティ番組『消えた天才』。
 積極的にチャンネルを合わせることはないものの、ついていると、ついつい見てしまいます。最初は人並み外れた能力を持つが故の苦労やそれを乗り越えるドラマが垣間見え、興味深く見ていました。(今ではすっかり普通の人になっていた場合は「あたり」、他の世界で成功していた場合は「はずれ」と思ってしまう自分は、心底小さい人間です)
 しかし回を重ねるごとにだんだん天才のインフレが起き、「天才というよりも、たまたまその時に調子が良かったんじゃないの?」という疑問が湧いてくるように。ハンカチ王子こと斎藤佑樹さんの回では、大学時代のレギュラーメンバーが全員、一流企業で働いていることが取り上げられていましたが、これって普通に就活の話ですやん!

 こうした天才の乱発と同じく、音楽の世界も“傑作のインフレ”を起こしがちです。レビューで「傑作」と褒めちぎっているので買ってみたら、普通よりも良くなくて、「この良さをわからない自分はマズいのでは?」と悩んでしまった経験のある人は少なくないでしょう。限られたお小遣いから身を削る思いでレコードを買っている身としては、プロの音楽ライターさんに言葉の重みをしっかりと自覚して書いてほしいと、声を大にして言いたい。

 しかながら、無数の傑作もどきのなかに真の傑作が紛れているのも事実。そのひとつが、竹村延和が1994年に発表した『Child’s View』。当時から傑作といわれていましたが、時が経つほどにその素晴らしさが際立ってくる本物の傑作です。
このアルバムが発売された頃はクラブミュージック花盛りで、ニュージャズのはしりとなる作品や、テクノとヒップホップを合わせたトリップホップといわれる作品が量産されていた時代。そんななか『Child’s View』はクラブミュージックをベースにしながらも、他とはまったく異なる感触の音楽で、かなりの異形感がありました。と同時に、クラブシーンに強い違和感を感じて距離を置いていた、竹村さんらしい作品だと感じたことをおぼえています。
 スタイルとしては、プログラミングされたリズムの上にジャズを基調とした生演奏がのっかっているのですが、ボサノバや現代音楽なんかの要素もブレンドされていて、メランコリックで内省的。けれども聴いているうちに気分が晴れる癒し効果もある。傑作といわれる多くの作品と同じく、さまざまな要素が絡み合って強固な世界観をつくりあげています。サウンドも賞味期限が短いリズムをはじめ、まったく古臭くなっていない。ロバート・グラスパーを筆頭とする新しいジャズの流れと比べても現役感バリバリで、唸ってしまいます。

 ただ本人は後のインタビューで、ゲスト参加しているD.C.リーではなく、ロバート・ワイアットに歌ってほしかったと語るなど、レコード会社の要望をのんで、自分がつくりたい音楽を100%かたちにできなかった様子。
 でも個人的には、外部の意見とぶつかり合ったことで、この作品が生まれたと思っています。彼が思い描いた通りにしていたら、それはそれで良かったのかもしれないけれど、窮屈で聴いていて疲れる音楽になっていた可能性が高かったんじゃないでしょうか。
 実際にこの後に発表された竹村延和版『音楽図鑑』ともいえる『こどもと魔法』はそんな雰囲気が出てきているし、2014年にソロ作品として12年ぶりに発表されたアルバム『Zeitraum』はモロにそんな感じになっています。今振り返ると『Child’s View』は、竹村延和という音楽家を通して時代がつくったアルバムといえるのかもしれません。

 『Child’s View』『こどもと魔法』をモノにして、いよいよこれから類い稀な才能を開花させていくと思っていたら、竹村さんは日本の音楽業界に愛想を尽かしてドイツに移住。表舞台に立つことはほとんどなくなりました。まさに“消えた天才”。
 そういえばメディアによく出ていた時も、彼のテーマだった“子どもの視点(Child’s View)」について質問するライターに不満げでした。というか、ほぼ怒ってました。そこを笑ってやり過ごすキャラだったら、もっと違うキャリアを歩んでいたと思うのですが、それができない人だからこそ『Child’s View』をつくることができたのでしょう。僕も女の人に「その髪型すごく似合ってるね」と気の利いたひと言をサラリと言えるキャラだったら、今より0.5ミリくらいはモテていたかもしれません。でも、そんなことをしていたら、間違いなく精神が崩壊していたでしょう。人生って複雑です。

 ところで雑誌『remix』の1994年ベストディスクを見直したら、ビースティ・ボーイズ『イル・コミュニケーション』、ベック『メロウゴールド』、ジョンスペ『オレンジ』、ピート・ロック&C.L.スムース『メイン・イングリーディエント』、ギャングスター『ハード・トゥ・アーン』、ジェフ・ミルズ『Waveform Transmission Vol.1』などが発表された年でもありました。

posted by ichio
2018.08.29

サマソニ〜ベックのパフォーマンスに脱帽

180829 50近いオッサンがキャッキャッとはしゃぐ姿というのは、若人たちにはどう映るのでしょうか? 興奮が醒めていくに従い、「キモい、このオッサン」と思われていたのではと、ワキ汗が滲む今日この頃です。
 サマーソニック大阪でベックを観て、年甲斐もなく盛り上がってしまった話をしております。
 実はベックのライヴを生で観るのは今回がはじめて。これまで映像で観る限りでは、あくまでメインの活動はレコーディングであり、ライヴはグッとこないタイプのミュージシャンだと勝手に決めつけておりました。が、まったくそんなことはありませんでした。というか、もうサイコーで、圧倒されました!

 当日はお昼過ぎに会場に到着。熱中症対策として屋内会場でソルティライチを飲みながらスタンバイ。しばらくすると注目していた新鋭、トム・ミッシュのライヴがはじまる。ソウル、ブルース、ジャズ、そしてヒップホップのエッセンスを絶妙の加減でミックスし、極上のポップソングに仕上げている。自ら演奏するギターは透明感あふれるジョン・メイヤー直系。聴いていて気持ちいい。20代前半にして、このセンスとソングライティング能力。間違いなく近い将来メインストリームに駆け上がるでしょう。ちなみに僕が彼と同じ年齢の頃は、毎日「彼女ほしい〜」と悶絶していました。

 お目当てのミュージシャンが特にいない時間帯になったので、「せっかくなので」ということで、ONE OK ROCKを観賞。普通にカッコいい。森進一さんのご子息、こんな感じになっておられたのですね。
 この頃になると、クーラーボックスに飲み物を詰め込んでやって来た友だちが、となりでせっせとつくってくれるチューハイでホロ酔い気分に。「アテがほしい」ということで屋台ゾーンに行って飲み食いしている間に、楽しみにしていたチャンス・ザ・ラッパーを見逃してしまいました。

 そしていよいよ、ベックの登場。がんばって前へ移動すると、御用達のサンローランを身にまとい、ギターを持ったベックが目の前にいる。と、いきなり「デビルズ・ヘアカット」がはじまり、「ルーザー」へとなだれ込む必殺の展開。ジェイソン・フォークナーやロジャー・マニングjrらをはじめとするバックバンドが繰り出すサウンドは、ひたすらラウドで面食らう。そんなオッサンの驚きなどおかまいなしに、この後も目下最新作の傑作『カラーズ』を中心にキラーチューンのオンパレード。完全にパーティーモードというか、花火大会モード。前で踊りまくる外国人に感化され、こちらも大はしゃぎ。“ひとつになる”って、こういう感じだったんスね! 一体感を体感していると、外国人は彼女さんをハグしたりチューしたりとヒートアップ。やっぱり“こっち”と“そっち”には高い壁がありました……。
ライヴはあっという間に後半。メンバー紹介に合わせて、シック、ストーンズ、ニュー・オーダー、トーキング・ヘッズの曲をちょこっと演奏するのですが、これがイカす! 「ブルー・マンデー」なんか確実に本家よりカッコいい。(ニュー・オーダーは、ド級のヘタさが魅力なんですけどね)
 やってもやっても尽きないキラーチューンと完成度の高いパフォーマンスに、20年以上に渡りミュージックシーンの最前線を走りつづけている男の凄みを感じました。
 今年のサマソニ大阪はかなりショボいラインナップで、実際にお客さんの入りも残念だったようですが、ベックの最新型ライヴを観ることができただけで大満足です!

posted by ichio
2018.08.10

ボブ・マーリーの新発見

180810 今年の京都は命にかかわる酷暑がつづき、オヤジがイキって外に出てもろくなことはないので、休みの日は家でおとなしくしています。ですが、もともとじっとしていられない質で、昼を過ぎるとウズウズしてきて近所散策に出かけるのですが、案の定軽い熱中症になって帰ってきます。
 夕方になるとシャワーをして、冷や奴とビールで火照ったからだを冷やすわけですが、こんな時にかける音楽はレゲエがいちばん。完全に脳内の回路がシャットダウンし、ゾンビ状態になります。しかしこんな時に限って子どもが「数学の宿題のヒントちょうだい」と来るんですよね。ほろ酔い気分の時にほとんど忘れてしまった連立方程式で頭を悩ますのって、けっこう地獄です。

 タレ流し用レゲエの新しいレコード(といっても古いルーツレゲエですが)が欲しいなと思い、ボブ・マーリーのメジャーデビュー前のアルバムを購入。これまで彼の初期の曲は、スタジオ・ワンのコンピレーションに入っているスカしか聴いたことがありませんでした。何といいますか、左上のジャケットデザイン(『アフリカン・ハーブスマン』)のような粗雑さが買う気を削ぐんですよね。何周まわっても決していい感じには見えないデザインと同じように、音の方も残念なクオリティになっている気がしたんですよね。
 同じ理由で僕はブートレッグも買いません。あのテキトーなジャケットが受けつけなくて。アルバムは音だけでなく、ジャケットも世界観をつくる大切な要素。そこがおざなりになっていると冷めてしまうんです。それに大半の場合、ミュージシャン本人がライブの出来栄えに納得していないから正規盤として発表しないわけで、それをさらに録音状態の悪いレコードを買うっていうのはどうなのかなと個人的には思っています。ちょっと違うかもしれませんが、自分の仕事でも制作途中のものを見られるのって、キン◯マ見られるより恥ずかしいですから。・・・・・いや、僕の場合キンタ◯は見てほしい願望があるかもです。

 話は戻り、御大リー・ペリーがプロデュースを担当した『ソウル・レベルス』と『アフリカン・ハーブスマン』のアナログ盤を買ったのですが、すごくよいではないですか! やっぱり食わず嫌いはいけません。曲調は絶頂期のような緊張感はなく、のんびりしていて、ボーカルはピーター・トッシュ、バーニー・ウェイラーとのコーラスがフィーチャーされている。サウンドもメジャー作品のようなクリアな音ではなく、全体がグシャッとひとつの塊になってモコモコと鳴っている感じで、低音もズッシリと重い。行ったことはないけれどジャマイカの陽の光や風、砂ぼこり、人ごみの匂いが脳裏に浮かんできます。
 レゲエは針がこすれてプチプチ鳴るノイズもいい具合になる要素なので、アナログ盤がベスト。ただ、リー・ペリーがつくるサウンドはのどかに聴こえるものでも、奥に病的なものが漂っているので、知らないうちに酔いは醒めてしまいます。

posted by ichio