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2021.07.06

一生モノ級の傑作、『アメリカン・ユートピア』

210706 サイコーやないですかッ!! デヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』。
 カッコ良すぎて涙腺が崩壊し、ヒックヒックするくらい泣いてしまいました。

 ざっくり内容を説明しますと、かつて彼がフロントマンを務めていたバンド、トーキング・ヘッズとソロになってからの代表曲をメインに構成されたブロードウェイのショーを、映画監督のスパイク・リーが映像化した作品です。
 といっても、単なるライヴやミュージカル仕立てにならないところが、デヴィッド・バーンのデヴィッド・バーンたる所以。何と、裸足でお揃いのスーツを着た11人のミュージシャンが、舞台狭しと日本体育大学の集団行動のように複雑なフォーメーションをとって行進したり踊ったりしながら、演奏するんです。
 しかも演奏はシンプルかつグルーヴィーで、グイグイ腰にくる完成度。デヴィッド・バーンのボーカルも年齢を重ねて滋味が滲み出てきて、若い頃とはまた違った魅力があります。

 あまりにスゴ過ぎて、「こんなクオリティの高い演奏と複雑な動きを同時にするのは無理。絶対に口パク」と邪推する人がいても、僕は怒りません。生演奏だと知っていても、途中から「そうはいっても、ちょっとくらい口パクしてるんじゃないの?」と疑ってしまうくらいですから。
 しかし、こうした疑問に対して、デヴィッド・バーンはメンバー紹介を交えながら本当の本当に生演奏であることを証明し、観客を改めて唸らせます。

 『アメリカン・ユートピア』が素晴らしいのは、技術的にすぐれているからだけではありません。むしろ、デヴィッド・バーンのセンスと知性、そしてひょうひょうとした佇まいがあってこそといえるでしょう。
 実際に踊り自体は高度な技を披露しているわけではないのですが、ユルいところとバシッとキメるところのメリハリをつけることで、カッコ良さが際立っているんですよね。
 余談ですが、ピーター・ガブリエルのライヴにも同じような魅力を感じます。
 こういうスタンスは、肉体的な経年劣化が加速している中年として、是非ともお手本にさせていただきたいところです。

 また、このショーではデヴィッド・バーンの語りや舞台演出によって、さまざまなメッセージが発信されているのも特徴。でも、それが頭デッカチになっていないのが粋。近年顕著になっている世界の断絶に対しても、特定の個人や国を糾弾するのではなく、その原因は一人ひとりの心にあるとしている点にも共感。しかも、それをあんなモノ、こんなモノで表現するなんて、イカして過ぎてますやん。

 あともう一つ、おそらく複雑・高度であろう撮影や構成をそうとは見せず、没入体験させてくれるスパイク・リーの手腕も素晴らしい。そして、パフォーマーが全集中している緊張感と、音楽が楽しくてしかたないと感じている姿がとらえられていて、胸が熱くなります。音楽が好きでないと、こういう映像は絶対に撮れません。

 もうベタ褒めを通り越してネチョ褒め状態ですが、ブロードウェイ公演されたのを知った時は、昔のヒット曲を焼き直ししているように思えて、「デヴィッド・バーンも年をとったなぁ」と残念な気持ちになったことを白状します。
 いやもう、完全な間違い。菓子折りを持ってニューヨークまで謝りに行かなければなりません。

 彼は「これはいつ書いた曲なのか」といったみみっちいことにはこだわらず、「“いま” 意味のある曲は何か」という視点でとらえているんです。
 また、ラテンやアフリカの音楽を積極的に取り入れてきた彼は、かつて「人様の文化を搾取している」、「植民地主義だ」など、批判されることもありました。当時から評論家のこじつけ感がハンパありませんでしたが、今振り返るとさらに、そういった物言いの方がはるかに傲慢なエリート主義であることが分かります。
 デヴィッド・バーンは、異文化の音楽を奪ったのではなく、異文化の音楽に心を奪われたんです。そして、音楽の素晴らしさと力を心から信じているんです。
 そんな彼に魅了されないわけがありません。

posted by ichio