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2020.09.01

いま聴くべき劇薬、サンズ・オブ・ケメット

200901 黒い。ただ黒いのではなく、テリが出ないほどドス黒い。
 これは、サンズ・オブ・ケメットの目下最新作『ユア・クイーン・イズ・レプタイル』を聴いた感想。僕的にサイコーの褒め言葉です。

 サンズ・オブ・ケメットは、UKジャズシーンの最前線を突っ走るテナーサックス・プレイヤー、シャバカ・ハッチングス率いるグループ。
 メイングループのシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズがアフリカ色の強いサウンドなのに対して、こちらはアフロに加えてキューバやジャマイカ、ニューオリンズ、はたまた中東など、さまざまな地域のリズムや旋律を取り入れているのが特徴。しかし、音楽性の幅を広げたことで、彼の中にある黒さがより際立つ結果に。ジ・アンセスターズも異様に黒いサウンドですが、サンズ〜は文字通りドスの効いた黒さ。
 さっきからまったく説明になっていませんが、一度聴いてもらえれば分かっていただけると思います。

 現在進行形のテナーサックス・プレイヤーといえば、もう一人、カマシ・ワシントンというキャラの濃い人がいます。
 カマシとシャバカの共通点は、演奏する楽器だけでなく、“ジャズ”という枠にとらわれない音楽的志向と、スピリチュアルというキーワード。見た感じも何となく似たような雰囲気が漂っています。
 このようにジャズに対するアプローチは相通じるものがあるものの、そこから生み出される音楽はかなり異なります。カマシはファラオ・サンダース直系の昇天ミュージックで、明るく開放的なのに対して、シャバカは暗く内省的。そして、シャバカが吹くテナーは野太く、骨の髄まで響き渡ります。
 そもそも、サンズ〜のテナーサックス、チューバにツイン・ドラムという編成からして変態。この異形感は、ファラオ・サンダースよりもエリック・ドルフィーに近いように感じます。

 シャバカはサウンドだけでなくアティチュードも辛口で、『ユア・クイーン・イズ・レプタイル』では、イギリスに蔓延る人種差別と、それを助長する英国君主制やライフスタイルに対して、徹底的なアンチが打ち出されています。収録されているすべての曲名は「My Queen Is (人の名前)」になっていて、活動家をはじめ、実在するさまざまな女性を称えるメッセージが込められているとのこと。
 そういう意味でも、いま聴くべき音楽といえるでしょう。

 ただ、このグループから生み出される呪術的グルーヴは、心の奥底へズンズン沈んでいく劇薬ですので、コロナ禍で気持ちが下向きになっている方は、ご注意ください。

posted by ichio