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2019.03.28

素晴らしきかな人生

190328
 「しょうもない人生ぇぇぇッ!!」

 霜降り明星 粗品さんがツッコむ、「このマメ、デカっ」「関節鳴らへん」「この道に出てくるんやぁ」ということがトピックスになる、ペナペナに薄っぺらい人生をリアルに送っています。
 もう、かれこれ50年近く生きているのですが、まったくといっていいほど威厳や貫禄がないことに、自分でもビックリします。先日、ある仕事で高校時代のクラスメイトに偶然出会ったら、当たり前ですが、向こうは普通に年相応の大人になっていました。

 何となく脳裏をかすめていたけれども見て見ぬふりをしていた、自分は薄っぺらな人生を送っているのではないかという思い。それを突きつけてきよったのが、『国宝』(吉田修一)という小説。
 ヤクザの親分の息子として生まれ育ったものの、運命のあやで歌舞伎の世界に入り、さまざまな試練を乗り越えながら、ひたすら芸を磨き、頂点を極める男の一生を描いた大河小説です。
 
 次から次に予期せぬ出来事が主人公の喜久雄に降りかかるのですが、喜久雄は逃げずに真正面からぶつかり、すべてを芸の肥やしにしてステップアップしていくという、僕とは真逆の人生を歩むため、途中から読んでいて気恥ずかしくなってきます。
 いつもなら、「こんなヤツ、おらんやろう」と開き直ったり、「不幸のドン底に堕ちればいいのに」と妬みにかられたりするのですが、今回に限っては素直に喜久雄を応援するばかりか、喜久雄とともに涙することも。
 僕を〝良い人〟にしてくれたのは、喜久雄をはじめ、彼を取り巻く人たちが魅力的だから。一般常識に当てはめたら完全にアウトサイダーで、SNSで叩かれまくるようなことをする人たちなのですが、人としてどうにもこうにも魅力があるんですよね。最近はこういう人が生きにくい世の中なので、せめて物語のなかだけでものびのびと生きてほしいものです。
 また、作者の吉田修一さんが、歌舞伎という敷居の高い世界を舞台にし、作風も今までにないスタイルにチャレンジしたことが、この作品に勢いと深みを与えているように感じます。チャレンジする姿勢が登場人物の生き様と重なり合うことで筆がノリ、読む方も感情移入できるのかなと。

 ちょっと話は逸れるかもしれませんが、ミュージシャンや俳優が不祥事を起こす度に取り沙汰される、作品に罪があるのか問題。それぞれに意見があると思いますが、個人的には“作品に罪はない”派です。しでかした人が相応のペナルティを受けるのは当然で、現在進行形の公演やCMに影響を及ぼすのも仕方ないと思います。でも、過去の作品までをないものにしてしまうことには、かなりコワイものを感じます。大体、美術館で飾られている芸術といわれている作品を生み出した人の多くはアウトな人だったり、作品自体も不道徳なことが描かれていたりしますよね。こうしたことをすべて“常識”(これ自体もかなり危ういですが)という物差しではかるのはムリがあるように思います。

 『国宝』は新聞連載だったせいか、とにかくジェットコースターのような展開で、物語が進むと次第にハプニングのインフレが起こり、終盤はご都合的といいますか、フォレストガンプ的な感じなところもありますが、やたらめったらおもしろいことは間違いありません。そして、デカいバナナウンコが出ただけで嬉しくなる、薄い人生を送る僕にも、生きていること自体が素晴らしいと励ましてくれる、人生賛歌です。

posted by ichio