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2020.01.17

建物がまとう魔力は人がつくる

200117秋口から続いていた忙しさも、年が明けてようやく落ち着いてきました。先日、仕事で高知に行った際も時間と気持ちに余裕があったため、泊まって観光を楽しむことができました。真っ先に訪れたのは、「土佐の九龍城」、「日本のサグラダファミリア」といわれる沢田マンション(通称「沢マン」)。沢田マンションは、専門的なスキルを持たない大家さん夫婦が自ら建てた、地上5階地下1階の鉄筋コンクリート建築物。つまり近年流行っているDIYの元祖であり究極型です。建物は、大家さんの直感(あるいは斜め上からの啓示)による自由過ぎる増築が繰り返されてきたため迷路状態に。しかも各部屋からにじみ出ている古参住人のオーラが凄い。一人で探索していると空間や時間の感覚だけでなく、こちらの価値観までねじ曲がっていくような感覚になります。

そんなアメージングな体験をして思い出したのが、『HOME Portraits Hakka』(中村治)という写真集。どえらい存在感のある、おばあさんの顔の表紙を開いてまず引きつけられるのが、客家(はっか)という中国の移民が暮らす、福建土楼と呼ばれる集合住宅。外界を拒むようにそびえ立つ外壁をくぐると、何百年も前にタイムスリップしたような、それでいて単にレトロという言葉では片付けられない、こちらの感覚をねじ曲げる磁力をもった空間が広がっています。まさに沢田マンションの熟成版といった感じ。
しかし、ページをめくっていくと、この写真集の主役は建物ではなく、そこに住む人であることが分かります。ほとんどがおじいさん、おばあさんで、味わい深過ぎる顔をしている。みなさんレンズを見ているのに、その先のずっと遠くを見つめている感じなんです。その瞳には、その人のこれまでの人生だけでなく、土楼という閉ざされた空間で暮らしてきた人たちの生活や、脈々と続く生命のサイクルが映し出されているように感じます。
写真家の中村さんはあるインタビューで、建物を撮っても観光写真のようになってしまうため、そこで暮らし続けている人に焦点を当てることにしたと語っています。おそらく中村さんは客家の人たちの瞳を直視して、『2001年 宇宙の旅』のラストのようなトリップ感を体感したんじゃないでしょうか。
『HOME Portraits Hakka』に収められている写真は、すべて土壁に反射した黄色い光に覆われています。それはあとがきに記されている通り、魔術的な雰囲気を醸し出していて、まるで土楼の中の小さな世界が幻であるかのように思えてきます。

現在、福建土楼は世界遺産に登録されて観光地化が進み、多くの人は近くの現代的な家で暮らしているとのこと。中村さんが10年ぶりに訪れたところ、みなさんライフスタイルが変わって若返って見えたものの、撮影当時に感じた得体の知れない生命力は消えていたそうです。建物も住む人がいなくなるにつれ、磁力を失うでしょう。
そこでがんばってほしいのが、沢田マンション。福建土楼や九龍城、軍艦島を受け継ぐ“生きたラビリンス”として、歴史を重ねていってくれることを願います。

posted by ichio