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2020.05.06

カツカレー的映画『ファイヤーフォックス』

200405 完成度がユルく、かといってB級テイストを愛でる感じでもない作品であるにもかかわらず、どういうわけか繰り返し観てしまう映画って、誰にでもあるんじゃないでしょうか。
 そんな学食のカツカレー的映画。僕の場合、その筆頭として挙げられるのが、以前このブログでも取り上げた、ロマン・ポランスキー監督、ジョニー・デップ主演の『ナインスゲート』。そしてもう一本、今回ピックアップするクリント・イーストウッド監督・主演の『ファイヤーフォックス』です。
 今でこそ風格のある作品を撮るイメージが強いクリント・イーストウッド監督ですが、かしこまる必要はありません。昔はお気楽な作品を数多く撮っていました。

 ストーリーをざっくりまとめると、ソ連がマッハ6で飛び、パイロットが考えるだけで自動的に操縦・攻撃可能なスーパー戦闘機、MiG-31〝ファイヤーフォックス〟を開発。これにビックリしたアメリカ〜NATOは、軍事バランスを保つためにファイヤーフォックス強奪作戦を企て、イースドウッド演じる元トップパイロットのミッチェル・ガントに運命を託す! とまぁ、こんな感じです。

 話は、作戦を遂行するためにガントが訓練を受ける前半、ソ連に潜入してファイヤーフォックスにたどり着くまでを描く中盤、敵パイロットとドッグファイトを繰り広げる終盤の3幕構成。
 売り的には『スターウォーズ』で特殊視覚効果を手がけたジョン・ダイクストラによる空中戦が見せ場ということになるのですが、あまり期待してはいけません。それは技術が進歩した現在とのギャップで言っているのではなく、劇場公開当時から「結構ショボいなぁ・・・・」という仕上がり具合でした。ただ、そんな中にもD.I.Y.感というか愛嬌が漂っていて、観ていられる。

 実質的な見せ場は、ガントが麻薬売人になりすましてソ連に潜入し、現地工作員の協力を得ながらファイヤーフォックスに乗り込むまでのサスペンス。
 ここでも敵役のソ連軍大佐がガント一味の一網打尽を目論んでいるとはいえ、そこまで泳がしますか?という疑問が湧かないわけではありませんが、それでもハラハラしながら観ることができます。この辺りはイーストウッド監督の手腕に拠るところが大きいといえるでしょう。
 ガントのキャラもハラハラ要因のひとつ。普通のスター映画なら主人公は冷静沈着なヒーローとして描かれますが、ガントは事あるごとに慌てふためく頼りなさ。本気でイライラします。そんな情けなキャラをドM気質のイーストウッドが生き生きと演じているのも楽しい。
 「こんな奴でホントに大丈夫?」という頼りない主人公が観る側の興味を持続させ、クライマックスの空中戦でほんわかさせる。まさに緊張と緩和。実際、この映画のリピーターになると、空中戦は「ここはもう観なくていいか」とスルーするようになります。そんなことが許される気軽さもクセになるポイントです。

 よくよく考えると、アメリカサイドは人様のお宅に忍び込んで盗みをはたらく〝あかん〟人たちなんですよね。この作品が公開されたのは、米ソ冷戦の真っ只中の1982年。「アメリカこそ正義」、「アメリカ万歳!」といった空気が色濃く漂っていたこの時期に、こんな皮肉めいた映画を撮るところもイーストウッドらしい。決して傑作・名作といわれるような作品ではありませんが、好きになる要素は多分にあると思います。興味のある方はぜひ。

posted by ichio