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2021.09.14

ひと味ちがうスタローン〜『ナイトホークス』

210914 シルベスター・スタローン。
 この字面を見て、すでに半笑いになっている人はいませんかッ?!
 まさか、彼のことをやたら筋肉を見せたがる単細胞マッチョ俳優なんて思ってないでしょうね。まぁ間違ってはいませんが、彼の魅力はそれだけではありません。

 いや、もしかしたら、若い方々の中にはスタローン作品を観たことがない人や、「誰それ?」という人がいたりするかもしれない。
 知らないのは、時代の流れということで仕方ありません。問題は、半笑いになってしまうことです。そういう人の大半は、迷作『刑事ジョー ママにお手上げ』が原因ではなく、単細胞マッチョというイメージや、「エイドリア〜ン!!」と絶叫するロッキーのモノマネに引っ張られているんじゃないでしょうか。
 まず、はっきりさせておきたいのは、「エイドリア〜ン!!」と叫ぶシーンは、観ているこっちもヒックヒック嗚咽するくらいの胸熱シーンであることです。人付き合いが苦手で、どん詰まりの人生を送っていたロッキーとエイドリアン。そんな二人が出会い、自分らしくいられる場所を見つけ、ロッキーの人生を賭けた挑戦が終わった時、ボクシングの夢よりも世界でたった一人の理解者の方が大切だと実感して出てきたのが「エイドリア〜ン!!」です。そんな姿を見て泣かずにいられるわけがありません。

 スタローン自身も『ロッキー』の成功をきっかけにスターとなり、1980年代後半からながい迷走期はあったものの、素晴らしい作品を多く世に送り出してきた俳優であり、映画作家だということをご理解いただきたい。今ではロッキー・バルボアとジョン・ランボーという映画史に残る2大キャラクターを看板にしている彼ですが、『ロッキー2』の頃まではロッキーのイメージが付くことを避けるためか、いろいろな役にチャレンジしていました。
 そのひとつが『ナイトホークス』。

 取り上げられる機会が少なく地味な印象ですが、スタローンファンや犯罪モノが好きな人の間では根強い人気がある作品です。何といっても、ストーリーがあるのが素晴らしい。迷走期には、ただ腕相撲をとりつづける作品や、叫びながらマシンガンをぶっ放すだけの映画を連発していましたが、『ナイトホークス』にはしっかりとした筋があり、しかも伏線と回収、どんでん返しが効果的に使われていて、ピリッと引き締まったサスペンスアクションに仕上がっています。

 ところで最近やたら「伏線と回収」というフレーズを見るんですけど、何か僕の中での意味合いと違うんですよね。今って、何かしらの謎が振られて、その答えを明らかにすることを意味しているように感じます。だから、後半に登場人物がセリフでダラダラ喋っても回収成立となる。これじゃ、伏線が全然伏せてないし、単なる説明やん!
 事前にさり気なく後につながるネタが映し出されていたり、会話の中に潜んでいたりして、結果に至った時に「そういえばあの時!」と膝を打つのが本来の「伏線と回収」だと思うのですが。

 話は戻り、スタローンも『ナイトホークス』では、腕は立つけれど人としては癖が強い刑事を好演。癖が強いキャラというと「そんなヤツおらんやろ」というくらいデフォルメしがちですが、抑えた演技で汚れ感と不器用感を良いバランスで演じています。

 そして、この作品最大の見所は、一匹狼のテロリストを演じるオランダ出身のルトガー・ハウアー。非道なテロ行為を平然と行う狂いっぷりと、組織から見放されて追い詰められていく焦燥感を圧倒的な存在感で表しています。子どもの頃に見た時、「世の中にはこんな恐ろしい人間がいるんや」と、震え上がったものです。
 ルトガー・ハウアーはこの後、『ブレードランナー』や『ヒッチャー』でも唯一無二の悪役を演じ、アメリカでスターに。ただ彼もスター街道を走るようになって、スタローンと同じくステレオタイプなニヒルヒーローを演じる時期がつづき、再び渋い演技をみせてくれるようになるまで随分待たなければなりませんでした。

 スタローンは近年、ランボー・シリーズを超ヘヴィな作風で復活させたり、ロッキーのスピリットを次の世代へつなぐクリード・シリーズを始動させたりするなど、現在進行系で素晴らしい仕事をしています。
が・・・・、同時に迷走期の名残が濃ゆい大脱出シリーズもコンスタントにつづけているあたりが、スタローンらしくてステキです。

posted by ichio